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サプライチェーン・セキュリティ

サプライチェーン・セキュリティは、企業の製品・サービスが顧客に届けられるまでの一連の供給網(サプライチェーン)に存在する、さまざまなリスクや脅威(サイバー攻撃、情報漏えい、偽造品混入など)を防止・管理する取り組みのことです。

サイバー攻撃や情報漏えいのような IT リスクに限らず、製品の品質や模倣品混入、自然災害、物流の混乱、テロ・窃盗などを含む幅広いリスクが対象となる場合があります。近年は特に、IT 化が進むことでサプライチェーン全体に対するサイバーセキュリティ上の脅威が深刻化しているため、企業が重視すべき分野として注目されています。

サプライチェーン・セキュリティが重要視される背景

グローバル化・外部依存の拡大

製造業では、安価な新興国での製造や、消費地に近い地域での製造、資源や原材料の輸入といった形でグローバル展開や、海外だけでなく下町や地方の中小企業への製造委託のような外部からの調達は広く行われてきました。

また、製造業に限らず、サービス業でも海外を含む複数のサプライヤーやベンダーに依存するケースが一般的になっています。
日本語の使える海外のオフショアや国内のニアショアへのコールセンターの委託、ベトナムやフィリピンなどのソフトウェア開発のオフショアなどが代表的です。建築業では、専門性に応じてプライムコンストラクタやサブコンストラクタに分かれているケースが多く、それぞれが自社のリソースだけでなく様々な外注先と協業してプロジェクトを進めています。

地理的に分散した拠点や取引先、複雑な調達ルートの可視化・管理が難しく、セキュリティリスクが生じやすくなっています。

サイバー攻撃の高度化・巧妙化

大企業のシステムを直接狙う代わりに、セキュリティレベルが低い下請け企業やソフトウェアベンダーを踏み台にして侵入する「サプライチェーン攻撃」が増加しています。
ソフトウェア更新(アップデート)にマルウェアを仕込み、最終ユーザー企業を攻撃するといった事例も報告されている。

経済安全保障の観点

  • 国や産業界が重要インフラや機微技術を守るため、サプライチェーン全体の管理を強化する動きが各国で進んでいる。
  • 日本でも経済安全保障推進法の施行により、サプライチェーン・セキュリティの重要性が再認識されている。

レピュテーションリスク

  • サプライチェーン上のどこかで事故・不祥事が発生すると、消費者や取引先からの信頼を損ない、企業全体のブランド価値に影響を及ぼす。

サプライチェーンに潜む主なリスク

サイバーリスク(情報漏えい・マルウェア感染など)

  • サプライチェーン上の第三者がランサムウェアに感染し、自社データへのアクセス権限を持っていれば、そこから自社へ攻撃が波及する可能性がある。(サプライチェーン攻撃
  • ソフトウェアの納入・アップデート経路にマルウェアが混入することで、最終製品やサービス利用者に被害が及ぶ。

品質リスク(偽造・模倣品混入、設計通りでない部品の使用 など)

  • 認定されていない業者が安価な粗悪部品を混入させることで、製品の品質や安全性を損なう。
  • 特に医療・航空・防衛など、安全に直結する分野では重大な事故につながる。

自然災害や物流混乱による供給停止リスク

  • 特定地域での大規模災害が発生すると、部品の供給がストップし、自社の生産が大幅に遅延する。
  • 一極集中のサプライチェーン構造が災害リスクを増幅させる。

内部不正・盗難

  • 複数の外部倉庫や輸送業者を経由する過程で、商品の盗難や改ざんが起きるリスク。
  • 内部関係者による意図的な情報流出や製品の横流し、偽装書類の作成など。

コンプライアンスリスク

  • 下請け企業が労働基準法や環境保護規制などを順守していない場合、その違反行為が発覚すると、発注元企業が社会的責任を追及される恐れがある。

サプライチェーンセキュリティ対策の基本的な流れ

  1. 全体の可視化(マッピング)
    • 自社にとって重要な製品・サービスを構成するサプライヤーやベンダー、物流経路などを可能な限り把握・整理する。
    • 一次請けだけでなく、さらに下流の二次・三次請けの企業まで含めたリスクポイントを洗い出す。
  2. リスク評価・分類
    • サプライヤーの業務範囲や機密情報の取扱い量、重要部品の供給可否などに基づき、リスクレベルを分類(ハイリスク、ミドルリスク、ローリスクなど)。
    • サイバーセキュリティ水準の監査やコンプライアンス調査などを実施し、第三者リスクのスコアリングを行う(TPRM:Third-Party Risk Management)。
  3. リスク低減・管理策の導入
    • 契約面: セキュリティ要件や監査権限、情報保護義務、遵守すべき規格(ISO 27001 など)を明文化。
    • 技術面: サプライヤーが自社システムへアクセスする際、多要素認証や VPN など安全な接続手段を義務付ける。
    • 運用面: 定期的にリスクレビューを行い、問題が見つかれば早期に是正を求める。
  4. 継続的モニタリング・監査
    • サプライチェーンは動的に変化するため、単発の監査だけではなく継続的な観点で監視・評価を行う。
    • サイバー脅威インテリジェンスやニュース、災害情報などをチェックし、リスクが高まったベンダーや地域があれば迅速に対策を検討する。
  5. インシデント発生時の対応・復旧計画
    • 重要サプライヤーが被害を受けた場合の影響範囲を想定し、事業継続計画(BCP)を策定する。
    • 代替サプライヤーの確保や在庫調整、物流ルートの切り替えなどの手順をあらかじめ決めておく。